J. Japan Petol. 25, No. 6, 1982

高速四球試験機による水溶性潤滑剤の耐荷重能測定

〔Load-Carrying Capacity of same Water Soluble Lubricants.〕


要旨

 水溶性潤滑剤には、ソリュブルタイプあるいはエマルションタイプがあり、特にカリウム石鹸を含んだ水溶性潤滑剤の耐荷重能の研究を、シェル式高速四球試験機を用いて検討した。 各々の潤滑剤に関し、油剤濃度を変化させて焼き付き荷重を測定したところ、何れも焼き付き荷重(耐荷重能)が最大となる濃度が個々に存在することが判った。 さらにこの結果を考察するために、表面張力及びpHの測定を行い、同様な傾向が油剤濃度に関し対応することから、界面化学的見地に立って、最大耐荷重能と油剤濃度との関係を考察した。


緒言

 水溶性潤滑剤は、伸線加工・圧延加工・金属切削加工あるいは作動油として広く用いられており、水溶性であることの長所、耐火性能・高冷却性能・低価格と言った諸点から、将来益々需要が拡大して行くものと予想される。 この点からも、このような油剤に関する基礎研究や実用研究を早急に進展させて行くことが望まれる。

[使用油剤]

 水溶性潤滑剤(以下潤滑剤とする)は、市販品3種類と石鹸1種類であり、石鹸成分としては、炭素鎖長16から22・中和価200の高級脂肪酸のカリウム塩を使用した。

 界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキエーテル・HLB10〜15を使用した。 また、基油は、油脂・植物油・合成油・鉱物油を混合したものをベースとした。

 液の濃度調整をするにあたり、所定の方法で得られた母液に蒸留水を加え、重量百分率に従って希釈を行い、測定用試料としてガラス製容器に保管した。

   潤滑剤の濃度は、溶液中の基油成分・石鹸成分・界面活性剤成分の合計を有効成分とし、その重量百分率とした。

 各サンプルの分散状態は、顕微鏡下で観測を行い、全ての濃度域において、安定な分散状態が得られていることを確認した。 図1−A・Bは、サンプルAとサンプルB2をそれぞれ5%に希釈した液の顕微鏡写真である。


試験方法

[耐荷重能]


表面張力とpH測定

 潤滑剤の表面張力は、ウイルヘルミー法により行い、錘とチェンバーは20℃±0.5℃に温度コントロールされた状況で測定を行った。 表面張力は、値が平衡に達したのちの30分間後の時の値を測定値とした。 潤滑剤のCMCは、全てのサンプル群で得られた。  測定に使用するプレート・サンプル容器は、過マンガン酸カリウムの硫酸溶液と蒸留水で洗浄し、風乾したものを用いた。 潤滑剤のpHは、ガラス電極型pH測定器を20℃±0.5℃に温度コントロールされた状況で測定し、平衡に達した後の15分間経過の値をpH値とした。 電極は、測定前に必ず蒸留水を用いて洗浄を行った。


結果と考察

 サンプルAとサンプルB2の5%水溶液の回転速度と耐荷重能変化の関係をFig2に示します。 耐荷重能は、回転速度の増加に伴い、直線的に低下する傾向が見られる。 この低下は、摩擦表面が高速回転による油膜成分の油膜切れ、もしくは高温化により、潤滑膜が破断しやすくなったことによるものと考えられる。

  焼き付き荷重時における接触部分の平均平均温度は、19.8cm/秒のときには141℃であり、79.2cm/秒のときには317℃と計算される。 また油膜切れは回転速度の増加により生じることが知られており、EHL膜厚の測定を行うことにより、容易に観察される。

 これらの結果は、水溶性潤滑剤を耐荷重能で評価する場合、回転速度(すべり速度)の選択が必須であることを示唆している。 自動昇圧試験は39.6cm/秒(1000rpm)の条件で行った。

  図3は、潤滑剤濃度変化と耐荷重能の関係を示している。

 全ての石鹸液及びソルブルタイプ(サンプルA)とエマルションタイプ(サンプルB1)でそれぞれ耐荷重能値に極大値が得られた。 石鹸液では極大耐荷重能は0.1%付近に出現した。 この濃度は摩擦面に石鹸あるいは不溶解石鹸成分が飽和吸着した状況にあることが示唆されている。

  一方、油成分を含む潤滑剤の場合は、極大耐荷重能は1%付近に出現しており、耐荷重能値自体は石鹸単独よりも高い状況にあった。 これは、摩擦面上の吸着種が基油+石鹸である場合と、石鹸単独によるものである差違と考えられる。 潤滑剤による油膜は、油成分と界面活性剤成分の混成であり、より良好な潤滑油膜を形成することにより、耐荷重能値が増加したものと考えられる。

  極大耐荷重能はサンプルB2(エマルション平均粒径 2μm)についても認められ、石鹸・界面活性剤の比率は低いものの、サンプルB1(エマルション平均粒径 0.5μm)よりも粒径が大きく、油滴に吸着する界面活性剤量はサンプルB1よりも少ないものと推定される。 また、今後さらに水溶性潤滑剤の諸特性については、油成分の分散状況や粒度分布との関係も詳細に考察して行く必要がある。 摩擦表面や油膜表面に吸着した石鹸は、吸着膜を補強し、耐荷重能向上に重要な働きを演じるものと考えられる。

 浜口とその共同研究者等は、光干渉法により、エマルション系潤滑剤の形成するEHL潤滑膜の研究を行っている。 彼らは、油/水エマルションの油膜強度は、エマルション中の水分の濃度や分布状態には依存せず、構成している油成分のEHL挙動のみに依存していることを提案した。 一方、油/水エマルションは、このような強圧状態下では摩擦面を濡らすことが出来ず、油膜切れが容易に発生するという研究成果も得られている。これら一連の研究は、石鹸や基油・界面活性剤の境界潤滑領域における相互作用については検討されておらず、アニオン系界面活性剤を含む系における潤滑膜形成能力については、さらに検討を加える必要がある。

 前述の方法に従って得られた表面張力とpHの潤滑剤濃度変化について検討し、図4は石鹸とサンプルAの潤滑剤濃度と表面張力の関係を示している。 それぞれの潤滑剤から、明瞭に臨界ミセル濃度が得られており、それらの値は、それぞれの極大耐荷重能を示す濃度と一致している。 サンプルAのCMCは、界面活性剤あるいは界面活性物質が、気/液界面において吸着が平衡状態に達しているものと判断される。 このことから、水溶性潤滑剤の系においては、安全に潤滑し得る潤滑膜形成はミセル形成が可能となる濃度以上で平衡に達するものと考えられる。即ち、自動昇圧耐荷重能測定における水溶性潤滑剤の評価においても、CMCを考慮すべきことを示唆している。

  それぞれのpH極大濃度は、先に図3に示された極大耐荷重能濃度に近い値を示している。 今回の実験では、石鹸溶液のpH挙動のLucassen,Uzuの結果と良く一致している。 このことから、石鹸のpH極大濃度とCMCは対応しているものとみられ、このことは表面張力の測定結果からも興味深い結果となった。 CMC以下の濃度のときは、加水分解により生じた固体脂肪酸や酸性石鹸等の複塩が形成され、油膜形成能力が低下しているものと考えられる。

 一方、CMCよりも高濃度においては、中性石鹸及び酸性石鹸は可溶化されることから、pHは僅かに低下する。 サンプルAのCMCも、水溶性潤滑剤においてもミセル形成と潤滑膜形成は密接に関連するものと考えられる。

 さらに、油剤濃度変化による耐荷重能変化は、表面張力やpHの変化と良く対応しており、これら現象から水溶性潤滑剤の研究は、表面科学の見地から説明されるべきと考えられる。

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