水溶性潤滑剤の基礎
水への溶解について
 
水溶性潤滑剤を理解する上で、水という分子の性質を知る必要がある. まず、2個の水素と1つの酸素が結合した分子式(H2O)であるが、液体は水素イオン(H+)と水酸イオン(OH-)に電荷(イオン)した分子の集団で、しかも、置かれた環境(温度・圧力)で大きな変化が起こるという、特殊な液体であると考えねばならない. ある物質が水中に溶け込む(溶解)現象は、その物質が同じく電荷する性質を持っていて、水に接触した時に双方の対イオン(+と−)が引き合い、結合(水和:なじむ)した状態のことである.

油の分散

  
油のような電荷しない物質は、1の現象は起こらない. このような物質を水に解け込ますには、水と結びつく部分と油に結びつく部分の両方を併せ持つ両親媒構造の仲介役が必要である. それらを乳化剤、専門用語では界面活性剤と呼び、これらを扱う学問を界面化学と言う. この操作で油が水に進入した系を乳化(可溶化又は分散)と言い、それは水と油の2相に分かれるのに対抗する度合いを指しているのである. この行為は、自然の法則に逆らった(エントロピーの概念)形態のものであるため、これらの系の安定化理論(説)に関しては多くの学問に委ねることになる. このような物理化学的な詳細は、さておき、乳化液の成り立ちから、具体的な水溶性潤滑剤について説明する.

乳化剤の構造
 
水中に油を微粒子として安定に分散させる事を乳化と言い、その結果出来上がった系を乳化液と表現したが、その構造は、分子中に2つの性質を持ち合わせていて、一方は水となじむ水溶性基(親水基とも)で、片方は油となじむ油性基(疎水基とも)が結合した両親媒構造になっている. 界面活性剤の分子と水・油との係わりを拡大したイメージを〔図−1〕に示す.
 水中に油が界面活性剤分子で囲まれ(カプセル状)、分散している様子を〔図−2〕に示す.
乳化液の粒径の決定
 
乳化液の粒径(大きさ)は、界面活性剤の量と、分散する油の量(粒径=表面積)で決定する. すなわち、界面活性剤の量が多ければ粒径は小さくなり、少なければ大きくなる. 粒径は、0.1〜50ミクロンを形成させることが出来る. またエマルションを白濁液と言われ、この現象は油滴が大きくて光(波長と関係する)が反射して見えるのである. 逆に透明で連続層と見えるのは、油滴が小さく、光が通過してしまうからである. 一般に、白濁液をエマルション型、透明液をソリューブル型と定義している. (粒径は、エマルションで10〜1.0・ソリューブルで1〜0.1ミクロン位である)

 粒子の大きさによる色の変化(波長と関係する)のイメージを〔図−3〕に示す.
溶存状態の問題
 
溶存状態とは、水の中に溶解・分散している物質が、水中で どのような動きをするかである. もし水が水飴の様な高い粘度と考えると、その中の粒子は、ネバネバの中を移動することになり、運動が出来なくなる. 逆に粒子の濃度が高かったり粒径が大きい場合も、同様な現象が起こる. つまり、粒子が移動し易い環境条件作りが、機能の発揮に最も重要な要素なのである

乳化液の性質
1. 乳化安定性の問題
 乳化液の安定性を決定する因子は、油滴を界面活性剤で形成した境界膜の強度(膜強度)と、粒子径が主で、界面活性剤の量や種類等で決定するのである.  しかし、この状態は、温度・粘度・比重差等、多くの物理的要因が複雑に絡み合っており、特に温度の影響は顕著に受けて破壊に至る.
 このように、乳化液の環境は多くの要因が絡み合っていることから、長期の安定性は期待出来ないものである.

2. 機能を発揮する条件
 乳化液の性質の中で、最も重要なことは、いつ・どのような状態の時に乳化液が形成され、目的とする洗浄や潤滑等の機能を発揮する濃度はどの位であるか、の根拠である.
洗浄効果は、汚れの物質の表面を、界面活性剤が吸着してカプセルになった時に現われる. すなわち、汚染物質を包むに必要な界面活性剤の量が存在すればよいのである(それ以下では効果が無い).  その最低限度必要な量のことをCMC(限界ミセル濃度)といい、それを測定することによって乳化液の状況や行方を知ることが出来る. 同時にこの指標は、潤滑性能の評価にも利用出来ることも判っていて(弊社の論文をご参照下さい)、色々な現象を解明する原点となるものである.
 具体的に、〔図−4〕で引抜油の太物用の水溶性潤滑剤の意味合いを説明する.
 油膜強度曲線は、乳化液の粒子の安定性を示し、その挙動は潤滑性能曲線の最大値と対応する. 注目すべき点は、潤滑性能曲線の濃度7〜8%に潤滑性能の最大値を持つことである. また、洗浄効果曲線は、6%から急激に洗浄効果が変化し始め、9%近くで平衡状態になる. どれも共通する現象は、ある濃度で特性が変化する特異点があることである. 従って、その最大値の前後が、その乳化液の個性となるのである.


〔図−4〕各種 指標と濃度との関係

水溶性潤滑剤の成分と、それぞれの役割
 
水溶性潤滑剤は、上述した乳化液の生成メカニズムに機能を付加させたものであり、主な成分は次の表に示したような構成である. 
成  分 目 的 と 機 能 種  類
@基油・油性剤 2面間を隔てるのに、最も大きな粒子(クッション : ボールの様な役割)を形成させる為の基本的な物質. 特に油性剤は官能基を持ち、吸着力に優れる. 鉱物油(炭化水素)/動・植物油(エステル)/合成油(α-オレフィン/オリゴマー.etc)
A界面活性剤 油の粒子を形成させる膜で、油・油性剤の種類・構造により界面活性剤も異なる. 構造により金属と反応し潤滑性も有する. アニオン(-)/ カチオン(+)/
ノニオン(非イオン性)
B添加剤 1. 油剤の酸化を防ぐ
2. 活性剤の泡を消す
3. 金属と油剤が反応し、その劣化を防ぐ
1. 酸化安定剤
2. 泡消剤
3. 金属イオン封鎖剤

上記表で形成されたエマルションが、2面間を隔て、クッション・ボールの様に振舞う様子を〔図−5〕に示す.

水溶性潤滑剤の使用目的と効果
@ 冷却性・ストレート油に比較し水系は比熱が高く、金属を加工する時に発生する摩擦熱を冷却する効果が高い.
A 不燃性・使用上での安全性が高い.
B 経済性・水が主体である為、経済的である.

 この3点、が主な使用目的である.

水溶性潤滑剤の特徴
■水溶性潤滑剤を使用するにあたり、次のことを、あらかじめ理解しておく必要がある.

@ 水は100℃で沸騰する. 加工熱が水の沸点を超えた場合、表面で核沸騰が起こり加工表面は水潤滑(蒸気)となり機能を失う. (水溶性潤滑剤の使用限界温度は、約60℃位までである)

A 水溶性潤滑剤の利点は冷却効果にあるので、油分濃度を高めると熱拡散効果は低下する.

B 極圧添加剤(リン・ハロゲン・硫黄化合物:E.Pとも)は100℃以上で機能を発揮する為、水系での添加効果は期待できない.

C 乳化剤として、セッケンを使用している場合は、希釈する水質により大きく影響される.

D 加工金属種にもよるが、ほとんどの金属は水と反応するので、防錆対策が必要である.

E 長期間使用していると、乳化液は機械的・化学的な影響を受けて損傷し、本来の機能が発揮出来ないので、液の性質を理解し管理・調整する必要がある.


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